夢という言葉が 「睡眠中の体験」と 「願望や理想」の両方を意味する理由

夢(ゆめ)という言葉が 「睡眠中の体験」と 「願望や理想」の両方を意味するのは、人間の心のしくみそのものに深く関係しています。
言葉としての由来(語源)
日本語の「夢」は、古くは「寝ている間に見る幻」だけを指していました。
ですが、平安時代以降になると次第に「願望」「理想」の意味でも使われるようになります。
その背景には、夢が未来を映すものだと考えられていた文化的信念があります。
- 『古事記』や『日本書紀』では、神や祖先が夢を通して未来を示す場面が多い
- 「初夢」も、1年の運勢や願望を占う儀式的な意味を持つ
近代(明治〜昭和初期)には、西洋文化・思想の流入(特に英語 dream の影響)によって、夢 = 理想・願望という意味が日本語にも定着します。
心理学的構造から見る「二重の夢」
フロイトやユング以降の心理学では、夢は無意識がつくるシミュレーションだと考えられています。
ここで興味深いのは、願望や恐れもまた無意識の中でシミュレートされるという点です。
- 寝て見る夢 → 無意識の願望・記憶・感情が形を変えて現れる
- 起きて見る夢(理想) → 意識的に抱いた願望が未来に向かって形を取る
どちらも現実には存在しないけれど、心の中で強く描かれるイメージなのです。なので、心理学的に見ると、この2つは心の同じ領域から生まれているといえます。
文化的・言語的な共通性
「夢 = 願望」という意味の拡張は世界中で見られます。
言語 | 睡眠中の夢 | 願望・理想 | 備考 |
---|---|---|---|
英語 | dream | dream | 同じ |
フランス語 | rêve | rêve | 同じ |
中国語 | 梦(夢) | 梦想(夢想) | 同じ漢字が含まれる |
なぜ「夢」が比喩になるのか(深層的理由)
人間は、現実にないものを心で見るという体験を2つの形で持っています。
- 睡眠中の夢(内的な幻覚)
- 覚醒中の想像・理想(意識的な幻視)
どちらも「現実には存在しないけれど、心には確かに見える」という体験です。
そのため、「夢」は自然とまだ現実ではないが、実現を信じたいものの象徴になったのです。
まとめ
語源
未来や神託を示す「夢」から、願望・理想の意味へ発展しました。
心理構造
無意識と意識が生み出す内的シミュレーションとして共通しています。
文化的共通性
世界各地で「dream = 願望」の比喩が存在します。
意味的本質
「まだ現実でないものを、心で見る」体験を指します。
人間は「未来」を現実になる前に、心の中で見ることができる存在です。それが、夢という言葉に2つの意味が宿った理由かもしれません。